
静脈内鎮静法はインプラントや親知らずの抜歯で使うもの。そう思っている方が多いかもしれません。
たしかに外科的な処置で用いられることが多い方法ですが、通常の虫歯治療や根管治療で使うこともできます。歯科治療への不安が強く通院が続かない方、治療が必要な歯が多く通院回数を抑えたい方にとって、選択肢のひとつになります。
この記事では、虫歯治療や根管治療で静脈内鎮静法を用いる場面、複数本をまとめて治療する場合の考え方、通院回数との関係、保険適用の判断について整理します。
なお、静脈内鎮静法そのものの説明については別記事で扱っています。
虫歯治療でも静脈内鎮静法は使えるのか
外科処置に限られるわけではない
静脈内鎮静法は、抜歯やインプラント手術といった外科的な処置で用いられることが多い方法です。処置の時間が長く、体への負担も大きいためです。
一方で、通常の虫歯治療や根管治療で用いることもできます。処置の内容によって使えるかどうかが決まるのではなく、その患者さんに鎮静が必要かどうかで判断されます。
対応しているかどうかは歯科医院によって異なります。外科処置のみに限定している医院もあれば、一般の治療でも対応している医院もあります。事前に確認しておくとよいでしょう。
検討される場面
歯科治療への不安や恐怖が強く、通常の方法では治療を進めることが難しい場合。診療台に座ること自体が負担になっている方が該当します。
器具が口に入ると強い吐き気を催してしまう嘔吐反射が強い場合。虫歯治療でも器具や水が口の中に入るため、処置が進まないことがあります。
治療が必要な歯が多く、通院回数を抑えたい場合。一度に長時間の処置を行うことで、回数をまとめられることがあります。
治療のストレスによって血圧が大きく変動しやすい場合。全身状態を安定させる目的で用いられることがあります。
複数本をまとめて治療する場合
まとめられる理由
通常の保険診療では、一度の来院で処置する範囲が限られることが一般的です。処置の時間が長くなれば患者さんの負担も大きくなるためです。
静脈内鎮静法を用いる場合、鎮静下で長時間の処置を行うことができるため、複数の歯をまとめて治療するという進め方が可能になることがあります。
長く受診できずに治療が必要な箇所が増えてしまった方にとっては、この点が判断材料になります。
まとめることの負担
一度に処置する範囲が広がれば、当日の負担も大きくなります。
複数箇所を同時に削った場合、それぞれの部位で麻酔が切れたあとに違和感や痛みが生じることがあります。仮の詰め物が複数箇所に入った状態では、食事のしづらさも増します。
また、処置時間が長くなるほど、鎮静薬の使用量も増えることになります。
どこまでまとめるかの判断
何本をまとめて治療するかは、歯の状態、全身の状態、処置にかかる時間の見込みを踏まえて判断されます。
すべてを一度にという方針が常に適切とは限りません。歯の状態によっては、段階を踏んで進めたほうがよい場合もあります。
通院の都合や、休みを取れる時期といった事情も伝えたうえで相談してください。
根管治療と静脈内鎮静法
根管治療は、歯の神経を取り除き、根の内部を清掃して薬を詰めるまでの処置です。複数回の通院が必要になることが多く、一回あたりの処置時間も長くなりがちです。
処置中は口を開けた状態を保つ必要があり、器具が根の内部に入る感覚もあります。負担が大きいと感じる方が少なくありません。
静脈内鎮静法を用いることで、こうした負担を軽くすることができます。ただし、根管治療は複数回にわたる処置であるため、毎回鎮静法を用いるかどうかは相談のうえ判断されます。
なお、炎症が強い状態では局所麻酔が効きにくくなることが知られています。鎮静が十分でも痛みを感じる場合があるのは、このためです。痛みを感じたら、その時点で伝えてください。
通院回数を減らしたい場合
回数が減るとは限らない
静脈内鎮静法を用いれば通院回数が常に減る、というわけではありません。
まず、静脈内鎮静法を受ける前には、診察と検査を別日に済ませておく必要があります。当日いきなり受けられるものではないため、その分の来院が必要になります。
また、被せ物を作る場合には、型を取ってから装着するまでに別途来院が必要です。削る処置をまとめられても、その後の工程は残ります。
回数がどの程度まとまるかは、必要な処置の内容によって変わります。
時間の使い方は変わる
一方で、一回あたりの来院にかかる時間は長くなります。
事前の準備、処置、そして処置後に院内で休む時間が必要です。処置時間を1時間から2時間とすると、来院から帰宅まで合計で3時間から4時間程度を見込んでおくことになります。
通院の回数は減っても、一日あたりの拘束時間は長くなるという関係です。どちらが都合に合うかは、生活の状況によって変わります。
針が苦手な場合の対応
静脈内鎮静法では腕の静脈に点滴を確保するため、針を刺す必要があります。
歯科治療は怖いが、注射も苦手という方にとっては、この点が障壁になります。
対応として、点滴を入れる部位にあらかじめ表面麻酔のクリームやシールを使って刺入時の痛みをやわらげる方法があります。また、点滴を確保する際にのみ笑気麻酔を併用するという対応をとっている施設もあります。
針への恐怖が強い場合は、事前にその旨を伝えて相談してください。
事前に必要なこと
静脈内鎮静法は、当日いきなり受けられるものではありません。
事前に診察を受け、口腔内の状態と全身の状態を確認します。持病の有無、服用中の薬、過去の麻酔での経過、アレルギーの有無などが問診されます。お薬手帳を持参してください。
そのうえで、静脈内鎮静法を用いることが適切かどうか、どの範囲の処置をまとめるかといった計画が立てられます。
当日は飲食制限があり、来院時と帰宅時ともにご自身での運転は控えていただきます。
保険適用について
静脈内鎮静法が保険診療の対象になるかどうかは、その鎮静に医学的な必要性が認められるかによって判断されます。
虫歯治療そのものは保険診療で行われるのが一般的です。そのうえで、歯科治療への強い不安がある場合や嘔吐反射が強い場合など、通常の方法では治療を進めることが困難と判断される事情があれば、鎮静法も保険の対象となることがあります。
一方、自費診療として行う治療に伴って用いる場合には、鎮静も自費として扱われます。また、医療機関が保険診療として取り扱う体制を備えているかによっても案内される内容が変わります。
ご自身の場合がどちらにあたるかは、事前の相談で確認しておくとよいでしょう。
なお本記事では、具体的な金額の記載は行っていません。
歯科恐怖症学会からお伝えしたいこと
歯科治療への不安から受診が遠のき、その間に治療が必要な箇所が増えてしまう。そして箇所が増えたことで、通院の負担を想像してさらに足が向かなくなる。
この状況にある方にとって、まとめて治療できるという選択肢は意味を持ちます。何度も通う見通しが立たないという理由で受診をためらっている場合、進め方を変えることで動き出せることがあります。
ただし、静脈内鎮静法を用いれば通院がすべて解決するわけではありません。事前の診察が必要であること、一回あたりの拘束時間は長くなること、被せ物などの工程は残ることを理解しておく必要があります。
大切なのは、通院が続かない理由を伝えることです。時間が取れないのか、処置そのものが負担なのか、その両方なのか。理由がわかれば、それに応じた進め方を検討できます。
歯科恐怖症学会は、歯科治療が苦手な方に対する診療のあり方を研究し、その知見を共有することを目的とした団体です。患者さんがご自身に合った方法を選ぶための判断材料を提供することを役割としています。
まとめ
静脈内鎮静法は外科的な処置に限られるものではなく、通常の虫歯治療や根管治療でも用いることができます。処置の内容ではなく、その患者さんに鎮静が必要かどうかで判断されます。
検討されるのは、歯科治療への不安や恐怖が強い場合、嘔吐反射が強い場合、治療が必要な歯が多く通院回数を抑えたい場合、治療のストレスで血圧が変動しやすい場合などです。
鎮静下では長時間の処置が可能になるため、複数の歯をまとめて治療できることがあります。ただし当日の負担は大きくなり、どこまでまとめるかは歯と全身の状態を踏まえて判断されます。
通院回数については、常に減るというわけではありません。事前の診察が別日に必要であること、被せ物を作る工程は残ることを見込んでおく必要があります。一方で、一回あたりの拘束時間は長くなります。
対応している歯科医院は限られます。外科処置のみに限定している医院もあるため、一般の治療で希望する場合は事前に確認してください。
通院が続かない理由を伝えることから始めていただければと思います。
歯科恐怖症学会では、歯科治療が苦手な方に対応している歯科医師の情報を掲載しています。あわせてご覧ください。
よくある質問
虫歯治療でも静脈内鎮静法は使えますか
使えます。外科的な処置に限られるものではありません。ただし対応しているかどうかは歯科医院によって異なり、外科処置のみに限定している医院もあります。一般の虫歯治療で希望する場合は、事前に確認してください。
静脈内鎮静法を使えば一度で全部治せますか
鎮静下では長時間の処置が可能になるため、複数の歯をまとめて治療できることがあります。ただし何本まとめられるかは歯の状態と処置内容によります。被せ物を作る場合は装着のための来院が別途必要になるなど、すべてが一日で完結するわけではありません。
静脈内鎮静法を使えば通院回数は減りますか
減る場合がありますが、常にそうとは限りません。静脈内鎮静法を受ける前には診察と検査を別日に済ませておく必要があり、被せ物を作る工程も残ります。一方で、一回あたりの来院にかかる時間は長くなります。
根管治療でも使えますか
使えます。根管治療は処置時間が長く複数回の通院が必要になるため、負担が大きいと感じる方がいます。ただし毎回鎮静法を用いるかどうかは相談のうえ判断されます。なお炎症が強い状態では局所麻酔が効きにくくなることがあり、痛みを感じた場合はその時点で伝えてください。
点滴の針が苦手なのですが
点滴を入れる部位に表面麻酔のクリームやシールを使って刺入時の痛みをやわらげる方法があります。また、点滴を確保する際にのみ笑気麻酔を併用する対応をとっている施設もあります。事前に相談してください。
参考文献
- Perks A, Cheema S, Mohanraj R. Midazolam for sedation before procedures. Cochrane Database of Systematic Reviews.
- Dionne RA, Yagiela JA, Moore PA, Gonty A, Zuniga J, Beirne OR. Comparing efficacy and safety of four intravenous sedation regimens in dental outpatients.
- Hargreaves KM, Keiser K. Local anesthetic failure in endodontics: mechanisms and management. Endodontic Topics. 2002;1(1):26-39.
- Postoperative pain after root canal treatment: a systematic review.
- Comparison between intranasal and intravenous midazolam sedation in a dental phobia clinic.
- Safety and efficacy of different sedation protocols in managing dental anxiety in adult patients: a randomized controlled trial.
- 日本歯科医師会. テーマパーク8020「歯科治療の麻酔」.
歯科恐怖症学会編集部
本記事は歯科恐怖症学会に所属する歯科医師の監修のもと制作しています。

・歯科医師
・歯科恐怖症学会専門医
・マリコ歯科クリニック 副院長







