
静脈内鎮静法を勧められたけれど、実際にどんな感じなのかがわからない。眠るのか、眠らないのか。途中で目が覚めることはあるのか。何か変なことを口走ってしまわないか。
処置の説明を受けても、体感としてどうなるかは想像しにくいものです。そして想像がつかないことは、それ自体が不安の材料になります。
この記事では、静脈内鎮静法を受ける際に体に起こることを、時間の経過に沿って整理します。薬が入り始めてから、処置中、そして意識がはっきりして帰宅するまで、それぞれの段階でどのような状態になるのかをお伝えします。
なお、感じ方には個人差があります。ここに書かれているとおりになるとは限らないという前提でお読みください。
薬が効き始めるまで
点滴を入れるとき
処置はまず、腕の静脈に点滴を確保するところから始まります。肘の内側や手の甲など、血管が確保しやすい部位が選ばれます。
針を刺すときにはチクリとした痛みがあります。採血を受けるときの感覚に近いものだと考えてください。この時点ではまだ薬は入っておらず、意識ははっきりしています。
針が苦手な方に対しては、あらかじめ表面麻酔のクリームやシールを使って刺入時の痛みをやわらげる方法をとっている施設もあります。事前に相談しておくとよいでしょう。
点滴を確保する前に、血圧計を腕に、酸素飽和度を測る機器を指に装着します。これらは処置が終わるまでつけたままになります。
薬が入り始めてから
鎮静薬は少量ずつゆっくりと投与されます。一度にまとめて入れるのではなく、反応を見ながら量を調整していきます。
薬が入り始めると、体が温かく感じられる、ふわふわした感覚がある、まぶたが重くなるといった変化が現れることがあります。お酒を飲んで少し酔ったときの感覚に近いと表現されることもあります。
薬剤の種類によっては、点滴の部位から腕にかけてチリチリとした感覚が生じることがあります。血管痛と呼ばれるもので、一時的なものです。
眠気を感じ始めてから、ぼんやりした状態になるまでは、それほど時間はかかりません。ただし、どのくらいで効いてくるかには個人差があります。
処置中の状態
意識はどうなっているのか
静脈内鎮静法では、意識が完全になくなるわけではありません。
名前を呼ばれる、口を開けるよう促されるといった働きかけには反応できる程度の意識が保たれます。自分の力で呼吸もしています。この点が全身麻酔との大きな違いです。
ただし、体感としては眠っているのに近い状態です。周囲の状況に注意を向けることがなくなり、時間の経過も曖昧になります。処置が進んでいることを認識していない状態、と言い表すのが近いかもしれません。
痛みはどう感じるのか
ここは誤解の多い部分です。
静脈内鎮静法そのものには、痛みを取り除く働きがほとんどありません。痛みを抑えるのは局所麻酔の役割です。
そのため、鎮静が得られたあとに、処置する部位へあらためて局所麻酔が行われます。このとき、注射をされたことを認識していない方が多くいらっしゃいます。注射が苦手な方にとって、この点が負担の軽減につながります。
局所麻酔が効いていれば、処置中の痛みは抑えられます。ただし、効き方には個人差があり、炎症が強い部位では効きにくくなることもあります。
音や振動は聞こえるのか
削る音や振動については、まったく感じないという方もいれば、遠くで聞こえているような感覚があったという方もいます。
意識が完全になくなるわけではないため、こうした情報が届いていること自体はあります。ただ、それに対して不快だと感じる反応が起こりにくくなります。
そして後述のとおり、こうした感覚は記憶に残りにくくなります。
途中で目が覚めることはあるのか
処置中に意識がはっきりしてくることはあります。
その場合、薬を追加して調整するという対応がとられます。点滴のルートは処置中も維持されているため、その場で対応が可能です。
もし処置中につらいと感じたら、我慢せず伝えてください。声を出しにくい状況に備えて、手を上げるなどの合図を事前に決めておくと安心です。合図の取り決めができるかどうかは、事前の相談で確認してみてください。
記憶はどう残るのか
健忘作用という働き
静脈内鎮静法で使用される薬剤には、健忘作用があります。薬が効いている間の出来事が、記憶として定着しにくくなる働きです。
意識はあるのに記憶は残らない。この状態は直感的に理解しにくいかもしれません。意識があることと、その体験を記憶に残すことは、脳のなかで別の働きだと考えるとわかりやすいと思います。
そのため、処置が終わったあとに振り返ると、何をされたか覚えていないという状態になります。体感としては、気づいたら終わっていたという感覚に近くなります。
記憶の残り方には幅がある
まったく覚えていないという方もいれば、断片的に覚えているという方もいます。
処置の始まりのあたりは覚えているが途中からの記憶がない、削る音をぼんやり覚えている、といった形で部分的に残ることもあります。
記憶が残らないことを保証するものではない、という前提でお考えください。
治療後の説明も覚えていないことがある
健忘作用は、処置後の説明についても働きます。
術後の注意事項、薬の飲み方、次回の来院日といった情報を、あとになって思い出せないことがあります。
これは実務上、重要な点です。書面で受け取っておくか、付き添いの方にも一緒に説明を聞いていただくことをおすすめします。抜歯や外科的な処置を伴った場合には、守るべき注意事項が複数あるため、特に大切になります。
処置中の言動が心配な方へ
眠っている間に変なことを言ってしまわないか。こうした心配から鎮静法をためらう方がいらっしゃいます。
まず前提として、静脈内鎮静法では意識が完全になくなるわけではありません。深く眠り込んで無防備になるという状態とは異なります。
薬が効いている間に落ち着かない様子になったり、独り言のような発語があったりすることは、可能性としてはあります。ただし、歯科医院のスタッフにとっては、鎮静下での患者さんの様子は日常的に接しているものです。特別なこととして受け止められるものではありません。
また、処置中は口を開けた状態で器具が入っているため、まとまった会話ができる状況ではありません。
心配が強い場合は、事前にその旨を伝えておいてください。不安の内容を共有しておくこと自体が、負担の軽減につながります。
処置が終わってから
意識がはっきりするまで
処置が終わると、鎮静薬の投与が止められます。
時間の経過とともに意識がはっきりしてきますが、はっきりした瞬間がわかるというより、いつの間にか戻っているという感じ方をされることが多いようです。
目が覚めた時点では、まだぼんやりした感覚やふらつきが残っています。頭が重い、口が乾いているといった感覚があることもあります。
院内で休む時間
意識が戻ってもすぐに帰宅できるわけではありません。ふらつきや眠気が落ち着くまで院内で休みます。
参照した歯科医院の案内では、休憩時間として1時間から2時間程度を見込んでいる例が見られました。処置時間を1時間とすると、来院から帰宅までは合計で3時間程度を想定しておくと余裕が持てます。
ただし処置の内容や薬の効き方によって前後します。実際の目安は受診先で確認してください。
意識がはっきりしていること、水分がとれること、自分の足で安定して歩けることなどが確認されたうえで帰宅となります。
帰宅してから
当日は眠気やだるさが残ることがあります。ゆっくり過ごせるよう予定を調整しておいてください。
運転は帰りだけでなく来院時も控えていただきます。判断力や注意力が一時的に低下している可能性があるためです。火を使う作業や高所での作業も避けてください。重要な判断を伴う予定や契約などの手続きも、別日にしておくのが安心です。
飲酒、激しい運動、長時間の入浴も控えてください。
感じ方に個人差がある理由
同じ薬を同じ量使っても、感じ方は人によって異なります。
体格や体重によって、体内に広がる薬の濃度が変わります。年齢によって代謝の速さも異なります。日常的に飲酒の習慣がある方や、睡眠薬や抗不安薬を継続して服用している方では、反応が変わることが知られています。
当日の緊張の度合いも影響します。恐怖心が強い状態では体が覚醒に傾くため、同じ量でも効きが浅く感じられることがあります。
こうした個人差があるため、薬は少量ずつ投与しながら調整されます。時間をかけて慎重に投与することが、目的とする状態に近づけるうえでも、安全性の面でも重要とされています。
歯科恐怖症学会からお伝えしたいこと
静脈内鎮静法について、眠っている間にすべてが終わるという説明を目にすることがあります。実際の体感としてそれに近い場合もありますが、正確ではありません。
意識は残っていること。痛みを抑えるのは局所麻酔であること。記憶の残り方には幅があること。処置後は院内で休む時間が必要なこと。
これらを知らないまま受けると、思っていた話と違うと感じる可能性があります。逆に、あらかじめ理解したうえで受ければ、実際の体験とのずれが生じにくくなります。
期待を高く持ちすぎないことは、満足度を下げることではありません。むしろ、正しい見通しを持って臨むことが、納得のいく結果につながると考えています。
歯科恐怖症学会は、歯科治療が苦手な方に対する診療のあり方を研究し、その知見を共有することを目的とした団体です。患者さんがご自身に合った方法を選ぶための判断材料を提供することを役割としています。
まとめ
静脈内鎮静法を受けると、薬が入り始めてから体が温かく感じられる、ふわふわする、まぶたが重くなるといった変化が現れ、ほどなくぼんやりした状態になります。
処置中は、呼びかけに反応できる程度の意識が保たれています。ただし体感としては眠っているのに近く、時間の経過も曖昧になります。痛みを抑えるのは局所麻酔の役割で、鎮静が得られたあとにあらためて行われます。
健忘作用により、処置中のことを覚えていない方が多くなります。ただし記憶の残り方には幅があり、断片的に残ることもあります。処置後の説明も覚えていない場合があるため、書面で受け取っておくことをおすすめします。
処置が終わったあとは、ふらつきや眠気が落ち着くまで院内で休みます。1時間から2時間程度を見込んでいる例が見られました。帰宅後も当日は安静に過ごし、運転や注意力を要する作業は避けてください。
感じ方には個人差があります。体格、年齢、飲酒や服薬の状況、当日の緊張の度合いによって変わります。
不安な点があれば、事前の相談で確認してください。どのような状態になるかを具体的に聞いておくことが、当日の安心につながります。
歯科恐怖症学会では、歯科治療が苦手な方に対応している歯科医師の情報を掲載しています。あわせてご覧ください。
よくある質問
静脈内鎮静法では完全に眠ってしまいますか
意識が完全になくなるわけではありません。呼びかけに反応できる程度の意識は保たれ、自分で呼吸もしています。ただし体感としては眠っているのに近い状態で、時間の経過も曖昧になります。
治療中の記憶はまったく残りませんか
健忘作用により覚えていない方が多くなりますが、記憶の残り方には幅があります。断片的に残る場合もあり、残らないことを保証するものではありません。
途中で目が覚めることはありますか
処置中に意識がはっきりしてくることはあります。その場合は薬を追加して調整されます。点滴のルートは維持されているため、その場で対応が可能です。つらいと感じたら我慢せず伝えてください。
変なことを口走ってしまわないか心配です
静脈内鎮静法では意識が完全になくなるわけではなく、深く眠り込んで無防備になる状態とは異なります。また処置中は口を開けて器具が入っているため、まとまった会話ができる状況ではありません。心配が強い場合は事前に伝えておいてください。
処置が終わってからどのくらいで帰れますか
意識が戻ってもすぐには帰宅できません。ふらつきや眠気が落ち着くまで院内で休みます。1時間から2時間程度を見込んでいる例が見られました。処置の内容や薬の効き方によって前後しますので、受診先でご確認ください。
参考文献
- Perks A, Cheema S, Mohanraj R. Midazolam for sedation before procedures. Cochrane Database of Systematic Reviews.
- Dionne RA, Yagiela JA, Moore PA, Gonty A, Zuniga J, Beirne OR. Comparing efficacy and safety of four intravenous sedation regimens in dental outpatients.
- Complications associated with intravenous midazolam and fentanyl sedation in patients undergoing minor oral surgery.
- Swart R, Maes SSA, Cavanaugh D, Mason KP. Remimazolam pilot for office-based dental sedation: adverse events, awareness and outcomes. Journal of Clinical Medicine. 2023.
- Comparison between intranasal and intravenous midazolam sedation in a dental phobia clinic.
- Safety and efficacy of different sedation protocols in managing dental anxiety in adult patients: a randomized controlled trial.
- 日本歯科医師会. テーマパーク8020「歯科治療の麻酔」.
歯科恐怖症学会編集部
本記事は歯科恐怖症学会に所属する歯科医師の監修のもと制作しています。

・歯科医師
・歯科恐怖症学会専門医
・マリコ歯科クリニック 副院長





