パニック障害で歯医者に行けない方へ|予期不安と歯科治療の進め方

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パニック障害で歯医者に行けない方へ|予期不安と歯科治療の進め方

パニック障害で歯医者に行けない方へ|予期不安と歯科治療の進め方

歯が痛いのはわかっている。でも診療台に座ることを想像すると、あの発作がまた起きるのではないかと思ってしまう。逃げられない状況に身を置くこと自体が怖い。

パニック障害や不安障害を抱えている方にとって、歯科の診療台は特に負担の大きい場所です。横になって口を開け、器具が入っている状態では、途中で立ち上がることも声を出すこともできません。この逃げられないという感覚が、発作の引き金になることがあります。

そして一度そうした経験をすると、次はもっと行きにくくなります。歯科治療が必要だとわかっていても足が向かないという状態が続き、口腔内の状態が進んでいく。この循環に悩んでいる方は少なくありません。

この記事では、なぜ歯科の診療台が負担になりやすいのか、どのような配慮が可能なのか、主治医との連携はどう考えればよいのか、そして鎮静法という選択肢について整理します。

なお本記事は歯科治療の進め方について扱うもので、パニック障害そのものの治療については主治医にご相談ください。

なぜ歯科の診療台が負担になるのか

逃げられない状況という条件

パニック障害では、発作が起きたときに助けを得にくい状況や、すぐに逃げ出せない状況を避けるようになることが知られています。

歯科の診療台は、この条件に当てはまりやすい場所です。仰向けに寝た姿勢で、口を開けたまま器具が入っている。自分の意思ですぐに起き上がることも、話すこともできません。

さらに、口の中で何が行われているかは自分では見えません。予測できないことへの不安が重なります。

こうした条件が揃うため、歯科治療がとくに苦手だという方が多くなります。

予期不安の働き

一度発作を経験すると、また起きるのではないかという心配が生じます。これは予期不安と呼ばれます。

予期不安があると、実際に発作が起きていない場面でも緊張が高まります。予約を取った時点から落ち着かなくなる、前日に眠れなくなる、当日の朝から動悸がするといった形で現れます。

そして緊張した状態で診療台に向かうため、実際に発作が起きやすい状態がつくられてしまいます。予期不安そのものが引き金になるという構造です。

回避が続くことで起きること

不安が強いために受診を避ける。避けている間に口腔内の状態が進む。状態が進むと必要な処置が大きくなり、通院回数も増える。すると受診のハードルがさらに上がる。

この循環は歯科への恐怖全般にみられるもので、研究の対象にもなっています。個人の意志が弱いから生じているのではなく、構造的に起こりやすいものだと理解されています。

歯科医院に伝えておきたいこと

診断名を伝えるかどうか

パニック障害であることを伝えるのは勇気がいると感じる方もいらっしゃいます。

ただ、伝えておくことで受けられる配慮があります。処置の進め方、姿勢、時間の区切り方などを、その前提で組み立てることができるためです。

診断名を伝えることに抵抗がある場合、症状の内容だけを伝えるという方法もあります。動悸が起きやすい、逃げられない状況が苦手、途中で休憩を挟みたい。こうした具体的な内容のほうが、実際の配慮には直結します。

伝えておくと役立つ情報

どのような場面で症状が出やすいか。仰向けになったとき、口を開けたまま時間が経ったとき、器具が視界に入ったとき。場面が特定できれば、そこを避ける工夫がしやすくなります。

過去の歯科受診でどうだったか。途中で中断した経験、受診できずに帰った経験があれば、その旨も伝えてください。

通院中の医療機関と服用中の薬。これは配慮のためだけでなく、薬の相互作用を確認するうえでも重要です。お薬手帳を持参してください。

発作が起きたときにご自身がどうしているか。落ち着くまでの方法があれば、それを共有しておくと当日の対応がしやすくなります。

予約時に伝えるという方法

受診当日に口頭で伝えるのが難しい場合、予約の段階で伝えておくことができます。

電話での予約時、あるいはウェブの問い合わせフォームに書いておく。文章のほうが伝えやすいという方も多くいらっしゃいます。

歯科医院で行える配慮

休憩の合図を決めておく

もっとも基本的で、効果が大きいのがこれです。

手を上げる、指を動かすといった合図を事前に決めておき、それが出たら処置を止める。口を開けた状態では声を出しにくいため、合図があることが安心につながります。

止められるとわかっていること自体が、逃げられないという感覚を和らげます。実際に使わなかったとしても、その安心感には意味があります。

姿勢の調整

診療台を完全に倒さず、起こし気味の姿勢で処置を行うという方法があります。

仰向けになること自体が苦手な方の場合、この調整だけで負担が大きく変わることがあります。処置の内容によっては難しい場合もありますが、相談する価値はあります。

目元にタオルをかける対応が一般的ですが、視界を覆われることが苦手な方もいます。かけないでほしい場合は、その旨を伝えてください。

処置を短く区切る

一度に長時間の処置を行わず、短く区切って複数回に分けるという進め方があります。

10分ごとに起き上がって休憩を挟む、といった形であれば受けられるという方もいます。通院回数は増えますが、確実に進められるという利点があります。

まず短い処置から始めて、慣れてきたら時間を延ばしていくという段階的な進め方もあります。

事前の説明

これから何をするのか、どれくらいの時間がかかるのかを事前に聞いておくことで、予測できない状況が減ります。

処置中も、次に何をするかを声に出して伝えてもらうよう依頼できます。予測がつくことは、不安の軽減に直接つながります。

ただし、詳しく知るほうがかえって不安になるという方もいます。どちらが自分に合うかを伝えておいてください。

付き添いと予約時間

付き添いの方に同伴してもらえるかは医院によって異なります。待合室にいてもらうだけでも支えになる場合があります。

待ち時間が長いほど予期不安は強まります。比較的空いている時間帯を選ぶ、待たずに済む予約の取り方を相談するといった工夫が有効です。

主治医との連携

歯科治療を受けることを相談する

精神科や心療内科に通院されている場合、歯科治療を受ける予定があることを主治医に伝えておくことをおすすめします。

現在の状態で受けて問題ないか、当日の服薬をどうするか、歯科側に伝えるべきことがあるか。こうした点を確認できます。

薬の相互作用について

服用中の薬によっては、歯科で用いる薬剤との組み合わせに注意が必要な場合があります。

抗不安薬や睡眠薬など、鎮静薬と同じ系統の薬を服用している場合、鎮静法を用いる際の効き方に影響が出ることがあります。効きにくくなる場合も、逆に効きすぎる場合もあります。

歯科側にお薬手帳を見せていただければ、この点を確認したうえで方針が立てられます。

服薬についての注意

受診前に頓服薬を服用することについては、主治医の判断のもとで行われるものです。

歯科受診のためにご自身の判断で服用量を変えることや、以前処方された薬を残しておいて使うことは避けてください。歯科で使用する薬剤との組み合わせを確認する必要があるためです。

また、自己判断で常用薬を中止することも避けてください。中止することのほうがリスクになる場合があります。

鎮静法という選択肢

配慮を重ねても治療を進めることが難しい場合、鎮静法を用いるという方法があります。

笑気吸入鎮静法

鼻にマスクを装着し、笑気と酸素の混合ガスを吸入する方法です。緊張がやわらぎ、意識ははっきりしたまま落ち着いた状態になります。

注射も点滴も必要ないため、比較的取り入れやすい方法です。ただし鼻での呼吸が前提となり、鎮静の深さも限られます。

なお、マスクを装着することそのものに抵抗を感じる方もいます。息苦しさへの不安がある場合は、事前に相談してください。

静脈内鎮静法

腕の静脈から鎮静薬を点滴で投与する方法です。うとうとした状態になり、治療中の記憶が残りにくくなります。

パニック障害や不安障害がある方への対応として用いられることがあります。緊張が強い状態を避けられること、治療中の記憶が残りにくいことが、予期不安の面でも負担の軽減につながる場合があります。

ただし、意識が完全になくなるわけではありません。呼びかけには反応できる状態が保たれます。眠っている間にすべて終わるというイメージだけが先行すると、実際との差が生じます。

また、点滴のために針を刺す必要があるため、針が苦手な方には事前の相談が欠かせません。事前の飲食制限や治療後の休憩時間も必要になります。

全身状態や服用中の薬によっては慎重な判断が必要になる場合もあります。

保険適用について

歯科治療への強い不安があり、通常の方法では治療を進めることが困難と判断される場合、鎮静法が保険診療の対象となる可能性があります。

判断は診察を経て行われますので、事前の相談で確認しておくとよいでしょう。

最初の一歩の踏み出し方

治療を受けることを前提にせず、相談だけという形で受診することができます。

その日は治療をしないと事前に伝えておけば、心の準備がしやすくなります。診療台に座らず、カウンセリングスペースで話を聞くという対応をとっている歯科医院もあります。

まず医院の場所を確認しに行くだけ、電話で問い合わせてみるだけ、というところから始めても構いません。段階を細かく分けることで、一度に越えるハードルが低くなります。

歯科医院を選ぶ際は、事前のカウンセリングに時間をとっているか、不安が強い患者さんへの対応について説明があるか、鎮静法に対応しているかといった点が手がかりになります。問い合わせたときの受け答えの印象も参考になります。

歯科恐怖症学会からお伝えしたいこと

パニック障害や不安障害があって歯科に通えないという状況は、周囲に理解されにくいことがあります。気にしすぎだ、我慢すればいいと言われた経験のある方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、診療台という場所が発作の起きやすい条件を備えていることには理由があります。逃げられない、動けない、見えない。この3つが重なる場面は、日常生活のなかでもそう多くありません。

歯科の側も、こうした状況を前提とした配慮の方法を持っています。休憩の合図、姿勢の調整、時間の区切り、そして鎮静法。すべてを使う必要はありませんが、選択肢があることを知っておいていただければと思います。

そして、何が苦手かを伝えることが出発点になります。診断名でなくて構いません。仰向けが苦手、途中で休憩したい、逃げられないのが怖い。そのまま伝えていただければ十分です。

歯科恐怖症学会は、歯科治療が苦手な方に対する診療のあり方を研究し、その知見を共有することを目的とした団体です。患者さんがご自身に合った方法を選ぶための判断材料を提供することを役割としています。

まとめ

歯科の診療台は、逃げられない、動けない、見えないという条件が重なるため、パニック障害や不安障害がある方にとって負担の大きい場所になります。予期不安があると、それ自体が緊張を高め、発作が起きやすい状態をつくることもあります。

歯科医院で行える配慮としては、休憩の合図を決めておくこと、姿勢を調整すること、処置を短く区切ること、事前に説明を受けることなどがあります。なかでも合図の取り決めは、逃げられないという感覚を和らげるうえで効果が大きいものです。

精神科や心療内科に通院されている場合は、歯科治療を受ける予定を主治医に伝えてください。薬の相互作用を確認する必要があります。服薬についての判断は主治医のもとで行い、自己判断での変更は避けてください。

配慮を重ねても難しい場合には、笑気麻酔や静脈内鎮静法という選択肢があります。強い不安があり通常の方法では治療が困難と判断される場合、保険診療の対象となる可能性があります。

まずは相談だけでも受けてみることをおすすめします。診断名を伝えることに抵抗があれば、症状の内容だけを伝える形でも構いません。

歯科恐怖症学会では、歯科治療が苦手な方に対応している歯科医師の情報を掲載しています。あわせてご覧ください。

よくある質問

パニック障害であることを歯医者に伝えるべきですか

伝えておくことで受けられる配慮があります。ただし診断名を伝えることに抵抗がある場合は、症状の内容だけを伝える方法もあります。仰向けが苦手、途中で休憩したい、逃げられない状況が怖いといった具体的な内容のほうが、実際の配慮には直結します。

治療中に発作が起きたらどうなりますか

事前に合図を決めておけば、処置を中断して起き上がることができます。落ち着くまで休んでから再開するか、その日は中止して日を改めるかを相談することになります。発作が起きる可能性があること自体を事前に伝えておくと、当日の対応がスムーズになります。

受診前に頓服薬を飲んでもよいですか

主治医の判断のもとで行われるものです。ご自身の判断で服用量を変えたり、以前処方された薬を使ったりすることは避けてください。歯科で使用する薬剤との組み合わせを確認する必要があります。お薬手帳を歯科にも持参してください。

静脈内鎮静法を使えば眠っている間に終わりますか

意識が完全になくなるわけではありません。呼びかけには反応できる状態が保たれます。ただし治療中の記憶は残りにくくなるため、体感としては短く感じられることが多くなります。事前の飲食制限や治療後の休憩時間が必要になる点もご留意ください。

精神科の薬を飲んでいても鎮静法は受けられますか

服用中の薬によって、鎮静薬の効き方に影響が出ることがあります。効きにくくなる場合も、逆に効きすぎる場合もあります。受けられるかどうかは薬の種類と全身状態によって判断されますので、お薬手帳を持参して相談してください。

参考文献

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  6. Perks A, Cheema S, Mohanraj R. Midazolam for sedation before procedures. Cochrane Database of Systematic Reviews.
  7. 厚生労働省. こころの情報サイト「パニック症」.
  8. 日本歯科医師会. テーマパーク8020「歯科治療の麻酔」.

歯科恐怖症学会編集部

本記事は歯科恐怖症学会に所属する歯科医師の監修のもと制作しています。