
歯医者に行かなければいけないとわかっている。でも、口の中を見せた瞬間に驚かれるのではないか、怒られるのではないかと考えると、予約の電話をかける手が止まってしまう。
虫歯だらけの状態で歯医者に行く勇気が出ないという方から、こうした声をよく聞きます。そして受診しない期間が長くなるほど、虫歯は増え、見せることへの抵抗も強くなっていきます。恥ずかしいという気持ちが先に立ち、歯医者が怖いという感覚と重なっていきます。
この記事では、まず怒られるのではないかという不安について、実際のところどうなのかをお伝えします。そのうえで、本数が多い場合に治療がどう進むのか、通院回数はどう考えればよいのか、強い不安がある場合にどのような方法があるのかを整理します。
読んでいただいたうえで、相談だけでもしてみようと思えるところまでたどり着けば、それで十分だと考えています。
虫歯だらけでも歯医者に怒られないのか
歯医者は虫歯だらけの口腔内をどう見ているか
結論からお伝えすると、虫歯だらけであることを理由に歯医者から叱責されることは、現在の歯科ではほとんど想定されていません。
歯科医師が診察で見ているのは、どの歯にどの程度の進行があるか、神経は残せそうか、どの順番で処置するのが適切か、といった判断に必要な情報です。本数が多ければ、その分だけ計画を立てる作業が増えるという認識になります。
長く受診していない方の対応も、珍しいことではありません。何年も空いてから受診される方は一定数いらっしゃいます。
なぜ怒られると思ってしまうのか
それでも不安が消えないのには理由があります。
ひとつは、過去に実際に指摘された経験です。歯磨きができていないと強く言われた、治療を中断したことを責められたといった経験があると、その記憶が残ります。
もうひとつは、自分自身が放置してしまったという自覚です。責められて当然だという気持ちがあると、実際には何も言われなくても、そう見られているのではないかと感じやすくなります。
いずれも、本人の意志が弱いから生じているものではありません。歯科への苦手意識がある状態では、こうした思考が働きやすくなることが知られています。
不安があることを最初に伝えてよい
受診の際、口を開ける前に「怒られないか不安だ」と伝えていただいて構いません。
伝えておけば、歯科医院側もその前提で説明の仕方を選べます。長く受診できていなかった理由を話すかどうかは、ご自身の判断で構いません。話したくなければ、話す必要はありません。
予約の電話やウェブの問い合わせフォームで、あらかじめ伝えておくという方法もあります。
虫歯だらけの場合の治療の進め方
一度にすべてを治すわけではない
虫歯だらけの状態であっても、初回にすべてを治療するわけではありません。
まず行われるのは、口腔内全体の状態を把握することです。視診に加えてレントゲン撮影を行い、どの歯にどの程度の進行があるかを確認します。この段階では治療をしない場合も多くあります。
そのうえで、どの順番で進めるかの計画を立てます。すべてを把握してから動き出すため、初回は検査と説明だけで終わることも珍しくありません。
治療の順番はどう決まるか
一般に、次のような観点で優先順位が判断されます。
痛みや腫れがある部位は、まず対応が必要になります。日常生活への影響が大きいためです。
進行が進んでいて、放置すると選べる処置が減ってしまう部位も優先されます。
前歯など見た目に関わる部分については、ご本人の希望が考慮されることがあります。
同じ側にまとめて処置することで、食事に影響する期間を短くするという配慮がなされる場合もあります。
治療計画については説明を受ける機会があります。疑問があればその場で確認してください。
通院回数と期間の考え方
本数が多ければ、通院回数も相応に必要になります。
回数と期間は口腔内の状態によって大きく変わるため、一般化した数字をお伝えすることは適切ではありません。実際の見込みは、検査を経て立てられた計画のなかで説明を受けることになります。
通院の負担を減らしたい場合、一度の来院で複数の処置をまとめて行うという方法があります。ただし、一度に処置する範囲が広いと当日の負担は大きくなります。どちらを優先するかは相談のうえ決めることになります。
仕事や家庭の事情で通院間隔を空けたい場合も、その旨を伝えておくと計画に反映されやすくなります。
放置した場合に起こること
受診しない期間が長くなると、口腔内では変化が進みます。
虫歯であれば範囲が広がり、歯の神経に達すると処置の内容が変わります。神経を取る処置が必要になれば、通院回数も増えます。さらに進むと、歯を残すことが難しくなる場合があります。
ここでお伝えしたいのは、早く行かなければならないという圧力ではありません。むしろ、いま受診することで選べる選択肢が多く残っているということです。
そして、どれだけ期間が空いていても、受診を再開するのに遅すぎるということはありません。本数が多いから受け付けてもらえないということもありません。
歯医者が怖いと感じる場合の選択肢
相談だけの受診
最初の受診を相談だけと決めてしまう方法があります。
その日は治療をしないと事前に伝えておけば、心の準備がしやすくなります。診療台に座らず、カウンセリングスペースで話を聞くという対応をとっている歯科医院もあります。
口の中を見てもらうかどうかも含めて、その日にどこまで進めるかを事前に相談することができます。
治療の進め方を相談する
痛みが不安な場合、麻酔の方法や進め方について事前に相談できます。
処置を短い時間で区切る、途中で休憩を入れる、苦しくなったときの合図を決めておくといった取り決めは、事前に相談しておけば対応できることが多くあります。
鎮静法を用いる
不安や緊張が強く、通常の方法では治療を進めることが難しい場合には、鎮静法を用いるという選択肢があります。
笑気吸入鎮静法は、鼻から笑気と酸素の混合ガスを吸入してリラックスした状態をつくる方法です。注射も点滴も必要なく、比較的手軽に用いられます。
静脈内鎮静法は、腕の静脈から鎮静薬を点滴で投与する方法です。うとうとした状態になり、治療中の記憶が残りにくくなります。本数が多く一度にまとめて処置したい場合にも用いられることがあります。
どちらが適しているかは、不安の程度や治療内容によって変わります。すべての歯科医院で対応しているわけではないため、事前の確認が必要です。
保険適用について
歯科治療への強い不安があり、通常の方法では治療を進めることが困難と判断される場合、鎮静法が保険診療の対象となる可能性があります。
判断は診察を経て行われますので、事前の相談で確認しておくとよいでしょう。
受診しやすい歯科医院の選び方
長く受診できていなかった方にとって、どの歯科医院を選ぶかは重要です。判断の手がかりをいくつか挙げます。
事前のカウンセリングに時間をとっているかどうか。いきなり治療に入るのではなく、話を聞く時間が設けられているかは参考になります。
不安が強い患者さんへの対応について説明があるかどうか。歯科恐怖症への対応を明示している医院は、その分の体制を整えていることが多くなります。
問い合わせへの対応。予約前に不安な点を尋ねてみて、その受け答えの印象を判断材料にするという方法もあります。
鎮静法に対応しているかどうか。不安が非常に強い場合は、この点も確認しておくとよいでしょう。
歯科恐怖症学会からお伝えしたいこと
虫歯だらけの状態で受診をためらう方の多くは、口腔内の状態そのものより、それをどう見られるかを気にしています。
しかし、歯科医院に来る方は、何らかの問題があるから来ています。問題がない状態の口を見せに来る人はいません。歯科医師にとって、治療が必要な口腔内は日常的に見ているものです。
一方で、そう言われても不安が消えるわけではないことも承知しています。だからこそ、不安があることを伝えたうえで、どこまで進めるかを一緒に決めるという進め方をおすすめしています。相談だけで帰ってよいのです。
こうして情報を調べている時点で、すでに一歩進んでいます。次の一歩をいつ踏み出すかは、ご自身のペースで構いません。
歯科恐怖症学会は、歯科治療が苦手な方に対する診療のあり方を研究し、その知見を共有することを目的とした団体です。患者さんがご自身に合った方法を選ぶための判断材料を提供することを役割としています。
まとめ
虫歯だらけであることを理由に歯医者から叱責されることは、現在の歯科ではほとんど想定されていません。歯科医師が見ているのは、どの歯にどの程度の進行があるか、どの順番で処置するのが適切かという判断に必要な情報です。
虫歯だらけの状態でも、初回にすべてを治療するわけではありません。まず口腔内全体の状態を把握し、優先順位を判断して計画を立てます。初回は検査と説明だけで終わることも珍しくありません。
通院回数や期間は状態によって大きく変わります。負担を減らしたい場合は、まとめて処置する方法や通院間隔について相談することができます。
不安が強い場合には、相談だけの受診から始める、治療の進め方を相談する、鎮静法を用いるといった選択肢があります。
どれだけ期間が空いていても、受診を再開するのに遅すぎるということはありません。まずは相談だけでも受けてみることをおすすめします。
歯科恐怖症学会では、歯科治療が苦手な方に対応している歯科医師の情報を掲載しています。あわせてご覧ください。
よくある質問
虫歯だらけだと歯医者に怒られますか
虫歯だらけであることを理由に叱責されることは、現在の歯科ではほとんど想定されていません。歯科医院には何らかの問題を抱えた方が来院するため、治療が必要な口腔内は日常的に見られています。不安がある場合は、その旨を最初に伝えていただいて構いません。
虫歯だらけですが一度で治療できますか
通常、初回にすべてを治療することはありません。まず口腔内全体の状態を検査で把握し、優先順位を判断して計画を立てます。初回は検査と説明だけで終わることも珍しくありません。通院回数は状態によって変わります。
何年も歯医者に行っていませんが受診できますか
受診できます。期間が空いていることを理由に断られることはありません。長く受診していない方の対応に慣れている歯科医院も多くあります。まずは相談だけという形で受診することも可能です。
治療が怖いのですが何か方法はありますか
治療の進め方を相談することができます。処置を短く区切る、休憩を入れる、合図を決めておくといった取り決めは事前に相談すれば対応できることが多くあります。不安が特に強い場合は、笑気麻酔や静脈内鎮静法を用いるという選択肢もあります。
相談だけで受診してもよいですか
問題ありません。その日は治療をしないと事前に伝えておけば、心の準備がしやすくなります。診療台に座らずカウンセリングスペースで話を聞くという対応をとっている歯科医院もあります。どこまで進めるかを事前に相談してください。
参考文献
- Silveira ER, Cademartori MG, Schuch HS, Armfield JA, Demarco FF. Estimated prevalence of dental fear in adults: a systematic review and meta-analysis. Journal of Dentistry. 2021;108:103632.
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- Kvale G, Berggren U, Milgrom P. Dental fear in adults: a meta-analysis of behavioral interventions. Community Dentistry and Oral Epidemiology. 2004.
- Safety and efficacy of different sedation protocols in managing dental anxiety in adult patients: a randomized controlled trial.
- Comparison between intranasal and intravenous midazolam sedation in a dental phobia clinic.
- Perks A, Cheema S, Mohanraj R. Midazolam for sedation before procedures. Cochrane Database of Systematic Reviews.
- 日本歯科医師会. テーマパーク8020「歯科治療の麻酔」.
歯科恐怖症学会編集部
本記事は歯科恐怖症学会に所属する歯科医師の監修のもと制作しています。

・歯科医師
・歯科恐怖症学会専門医
・マリコ歯科クリニック 副院長






