嘔吐反射が強くて歯医者に行けない|原因と治療を進めるための対策

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嘔吐反射が強くて歯医者に行けない|原因と治療を進めるための対策

嘔吐反射が強くて歯医者に行けない|原因と治療を進めるための対策

口の中に器具が入るとオエッとなってしまう。型取りがどうしても耐えられない。奥歯のレントゲンで吐きそうになる。歯磨きのときですら、奥のほうに歯ブラシが届くとえずいてしまう。

こうした反応は嘔吐反射と呼ばれ、本来は誰にでも備わっている体の防御反応です。異物が喉の奥に入るのを防ぐための仕組みであり、あって当然のものです。ただし、この反応が過敏に出る方の場合、歯科治療を受けること自体が困難になります。

そして、治療が受けられないことで口腔内の状態が進み、ますます受診しづらくなるという循環に入ってしまう方が少なくありません。

この記事では、嘔吐反射が起こる仕組み、歯科治療のどのような場面で起こりやすいのか、そして治療を進めるためにどのような方法があるのかを整理します。

嘔吐反射とは

誰にでもある防御反応

嘔吐反射は、口の奥や喉に何かが触れたときに、それを吐き出そうとする反射です。絞扼反射と呼ばれることもあります。

食べ物以外の異物が気道に入ることを防ぐための仕組みで、意識してコントロールできるものではありません。反射という名のとおり、脳が判断する前に体が反応してしまいます。

問題になるのは、この反射が過敏に出る場合です。通常であれば反応しない程度の刺激でも強く反応してしまい、日常の歯磨きや歯科治療に支障が出ます。

意志の問題ではない

嘔吐反射が強い方が受診をためらう理由のひとつに、迷惑をかけてしまうという気持ちがあります。我慢が足りないと思われるのではないか、という不安を口にされる方もいます。

しかし、これは我慢や気合いでどうにかなるものではありません。反射である以上、意志の力で抑えることには限界があります。

歯科医院の側も、嘔吐反射が強い方への対応は珍しいことではありません。伝えていただければ、それを前提とした進め方を検討することができます。

嘔吐反射が起こる2つの原因

嘔吐反射の背景は、大きく2つに分けて考えられています。

生理的な原因

口の中や喉への物理的な刺激によって起こるものです。

器具が舌の奥のほうに触れる、型取りの材料が喉の近くまで広がる、水やだ液が喉に溜まるといった刺激が引き金になります。

咽頭が狭い方や、日常的に口呼吸をしている方では、こうした刺激に反応しやすいとされています。舌が大きい方、口蓋が敏感な方でも起こりやすくなります。

また、鼻づまりがあって鼻呼吸がしづらい状態では、口を閉じられないため反射が出やすくなることがあります。

心理的な原因

過去の経験や不安が引き金となって起こるものです。

以前の治療で強くえずいてしまった経験があると、その記憶が残ります。歯科医院の匂いを嗅いだだけで、診療台に座っただけで、吐き気を感じるという方もいます。実際に器具が口に入る前から反応が始まってしまう状態です。

また、これからえずいてしまうかもしれないという予期不安そのものが、反射を起こりやすくします。緊張していると体が過敏になるためです。

多くの場合、この2つは重なっています。生理的に反応しやすい方が一度つらい経験をすると、心理的な要因が上乗せされて反射がさらに強くなる、という経過をたどることがあります。

歯科治療で嘔吐反射が起こりやすい場面

型取り

嘔吐反射が強い方にとって、最も負担が大きいとされるのが型取りです。

トレーに入れた材料を口に入れ、固まるまでしばらく保持する必要があります。材料が喉の近くまで広がる感覚と、口を塞がれた状態が続くことが重なるため、反射が出やすくなります。

入れ歯やマウスピースを作る場合には、より奥まで型を取る必要があるため、負担が大きくなります。

レントゲン撮影

口の中にフィルムやセンサーを入れて撮影する方法では、奥歯の撮影時に反射が起こりやすくなります。

センサーを舌の上に置いて固定する必要があるためで、特に上の奥歯の撮影が難しいとされています。

奥歯の治療

奥歯の治療では、器具や指が口の奥のほうに入ります。長時間口を開けている必要もあり、だ液や水が喉に溜まりやすくなります。

治療中は下を向くことができないため、水が喉に流れやすい姿勢になります。これも反射の引き金になります。

歯石の除去やクリーニング

奥歯の裏側や歯と歯ぐきの境目に器具を当てる際、反射が出ることがあります。水を使うため、だ液や水の処理も課題になります。

自分でできる工夫

歯科医院で対応してもらうことに加えて、ご自身でできる工夫もあります。

鼻で呼吸することを意識する

口呼吸になっていると、喉が刺激を受けやすくなります。処置の間、意識して鼻で呼吸するようにすると、反射が起こりにくくなることがあります。

鼻づまりがある日は反射が出やすくなるため、体調を整えて臨むことも役立ちます。花粉症などで鼻づまりがある時期は、その旨を伝えておくとよいでしょう。

気をそらす

意識が口の中に集中しているほど、反射は出やすくなります。

足の指を動かす、手を握る、数を数える、片方の脚を上げるといった動作に意識を向けることで、反射が軽くなる場合があります。音楽を聴くことを認めている歯科医院もあります。

食事のタイミングに気をつける

満腹の状態では吐き気が出やすくなります。処置の直前に大量に食べることは避けたほうがよいでしょう。

一方で空腹すぎるのも体調に影響することがあるため、軽めに済ませておく程度が適しています。

予約の時間帯を選ぶ

朝のほうが反射が出やすいという方、逆に疲れている夕方のほうが出やすいという方がいます。ご自身の傾向がわかっていれば、それに合わせて予約の時間帯を選ぶという方法もあります。

歯磨きで慣らす

日常の歯磨きの際、少しずつ奥のほうまで歯ブラシを進める練習をすることで、慣れていく場合があります。

ただし無理に行うと、えずいた経験が積み重なって逆効果になることがあります。負担にならない範囲で行ってください。

歯科医院で行われる対応

姿勢と器具の工夫

診療台を起こし気味にして、水が喉に流れにくい姿勢をとることがあります。上体を起こしていたほうが楽だという方は、その旨を伝えてください。

型取りについては、通常のトレーではなく口に入る部分が小さいものを使う、材料の量を調整する、固まるのが速い材料を使うといった工夫があります。

近年では、器具を口に入れずに光学的に読み取る方法を導入している医院もあります。すべての処置に対応できるわけではありませんが、型取りの負担が大きい方にとっては選択肢になります。

レントゲンについても、口の外から撮影する方法であれば反射を起こさずに済みます。目的によって使い分けられます。

表面麻酔の応用

反射が起こりやすい部位に表面麻酔を塗ることで、刺激の感じ方を鈍らせるという方法があります。ジェルやスプレーの形で用いられます。

ただし、麻酔で口の中の感覚が変わること自体を不快に感じる方もいるため、合うかどうかは個人差があります。

処置を短く区切る

長時間の処置が難しい場合、短く区切って複数回に分けるという進め方があります。

一度に終わらせようとせず、休憩をはさみながら進めることで、負担が軽くなることがあります。通院回数は増えますが、確実に進められるという利点があります。

合図を決めておく

苦しくなったときに手を上げるなどの合図をあらかじめ決めておくことで、すぐに処置を止めてもらえます。

いつでも止められるとわかっているだけで、緊張が和らぐことがあります。これは反射の軽減にもつながります。

鎮静法という選択肢

工夫を重ねても治療を進めることが難しい場合には、鎮静法を用いるという方法があります。

笑気吸入鎮静法

鼻にマスクを装着し、笑気と酸素の混合ガスを吸入する方法です。緊張がやわらぐことで、反射が起こりにくくなることが期待されます。

ただし、鼻での呼吸が前提となる方法です。鼻づまりがある方や口呼吸が習慣になっている方では効果が得られにくくなります。また、反射が非常に強い方の場合、笑気麻酔だけでは十分でないことがあります。

静脈内鎮静法

腕の静脈から鎮静薬を点滴で投与する方法です。うとうとした状態になり、反射が抑えられることが期待されます。

嘔吐反射が強い方への対応として、静脈内鎮静法が用いられることは多くあります。反射が抑えられることで、これまで受けられなかった処置が進められるようになる場合があります。

治療中の記憶が残りにくくなるため、えずいてしまうかもしれないという予期不安の面でも負担が軽くなります。

一方で、事前の飲食制限や治療後の休憩時間が必要になり、対応している歯科医院も限られます。

保険適用について

嘔吐反射が強く通常の方法では治療が困難な状態は、異常絞扼反射として扱われることがあります。この場合、鎮静法が保険診療の対象となる可能性があります。

判断は診察を経て行われます。ご自身の場合がどうなるかは、事前の相談で確認しておくとよいでしょう。

歯科医院に伝えておきたいこと

受診の際、次のような情報を伝えておくと対応が検討しやすくなります。

どのような場面で反射が出るか。型取りのときなのか、奥歯の治療のときなのか、器具が口に入った瞬間なのか。場面が特定できると、そこを避ける工夫がしやすくなります。

どの程度の反射か。えずく程度なのか、実際に吐いてしまうことがあるのか。程度によって対応が変わります。

過去の歯科治療での経験。えずいてしまって治療が中断した、途中で帰ったことがあるといった経験があれば、その旨も伝えてください。

鼻づまりの有無や口呼吸の習慣。呼吸の状態は反射に関わります。

日常生活での状況。歯磨きでもえずくのか、食事に影響があるのかといった情報も参考になります。

伝えにくいと感じる方もいらっしゃいますが、迷惑をかけるという話ではありません。むしろ事前に知っておいたほうが、歯科医院としても準備がしやすくなります。

嘔吐反射そのものは治せるのか

率直にお伝えすると、嘔吐反射という反応そのものをなくすことは難しいとされています。防御反応として体に備わっている仕組みだからです。

ただし、反射が出にくい条件を整えることや、反射が出ても処置を進められる方法を選ぶことはできます。目指すのは反射をなくすことではなく、治療を進められる状態をつくることです。

また、慣れによって反射が軽くなっていく場合もあります。信頼できる歯科医院で少しずつ経験を積むことで、以前より受けられる処置が増えたという方もいらっしゃいます。

心理的な要因が大きい場合は、特にこの傾向がみられます。安心できる環境で成功体験を重ねることが、予期不安を減らすことにつながるためです。

歯科恐怖症学会からお伝えしたいこと

嘔吐反射が強いために歯科受診を諦めてしまい、長い期間が空いてしまったという方は少なくありません。そして期間が空くほど、いざ受診したときの処置が大きくなり、負担も増えるという循環に入ります。

この循環を断つために大切なのは、まず相談することです。反射が強いことを前提に、どこまで何ができるかを一緒に考える。それだけで進み方が変わることがあります。

すべての歯科医院が同じ対応をしているわけではありません。嘔吐反射への対応を明示している医院や、鎮静法に対応している医院を選ぶことも、選択肢のひとつです。

歯科恐怖症学会は、歯科治療が苦手な方に対する診療のあり方を研究し、その知見を共有することを目的とした団体です。患者さんがご自身に合った方法を選ぶための判断材料を提供することを役割としています。

まとめ

嘔吐反射は誰にでも備わっている防御反応で、意志の力で抑えられるものではありません。この反応が過敏に出る場合、歯科治療を受けること自体が困難になります。

原因は生理的なものと心理的なものに大別され、多くの場合この2つが重なっています。型取り、奥歯のレントゲン撮影、奥歯の治療といった場面で特に起こりやすくなります。

対策としては、鼻呼吸を意識する、気をそらす、食事のタイミングに気をつけるといった自分でできる工夫に加えて、姿勢や器具の調整、処置を短く区切る、合図を決めておくといった歯科医院側の対応があります。それでも難しい場合には、笑気麻酔や静脈内鎮静法を用いるという選択肢があります。

反射そのものをなくすことは難しいとされていますが、治療を進められる状態をつくることはできます。まずは相談だけでも受けてみることをおすすめします。どのような場面で反射が出るか、どの程度かを伝えていただければ、それを前提とした進め方を検討できます。

歯科恐怖症学会では、歯科治療が苦手な方に対応している歯科医師の情報を掲載しています。あわせてご覧ください。

よくある質問

嘔吐反射は治せますか

反応そのものをなくすことは難しいとされています。防御反応として体に備わっている仕組みだからです。ただし反射が出にくい条件を整えることや、反射があっても処置を進められる方法を選ぶことはできます。心理的な要因が大きい場合、慣れによって軽くなっていくこともあります。

型取りだけがどうしても無理なのですが方法はありますか

口に入る部分が小さいトレーを使う、材料の量を調整する、固まるのが速い材料を使うといった工夫があります。器具を口に入れずに光学的に読み取る方法を導入している医院もあります。すべての処置に対応できるわけではありませんが、事前に相談してみる価値はあります。

嘔吐反射があると伝えるのが恥ずかしいのですが

嘔吐反射が強い方への対応は、歯科医院にとって珍しいことではありません。事前に知っておいたほうが準備がしやすいため、むしろ伝えていただくほうが助かります。どの場面で、どの程度出るかを具体的に伝えられると対応が検討しやすくなります。

笑気麻酔と静脈内鎮静法はどちらが向いていますか

反射の強さによります。笑気麻酔は鼻での呼吸が前提となるため、鼻づまりがある方や口呼吸の習慣がある方には向きません。反射が非常に強い場合は笑気麻酔だけでは十分でないことがあり、静脈内鎮静法が検討されます。どちらが適しているかは診察のうえ判断されます。

嘔吐反射でも保険で鎮静法を受けられますか

嘔吐反射が強く通常の方法では治療が困難な状態は、異常絞扼反射として扱われることがあり、鎮静法が保険診療の対象となる可能性があります。判断は診察を経て行われますので、事前の相談で確認してください。

参考文献

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  7. 日本歯科医師会. テーマパーク8020「歯科治療の麻酔」.

歯科恐怖症学会編集部

本記事は歯科恐怖症学会に所属する歯科医師の監修のもと制作しています。