
静脈内鎮静法を勧められたけれど、薬を使うことに不安がある。副作用はないのか、自分は受けられる状態なのか、当日は何に気をつければいいのか。こうした疑問を持たれるのは自然なことだと思います。
静脈内鎮静法は、全身状態を監視しながら行われる方法です。ただし医療行為である以上、副作用が生じる可能性はあり、全身の状態によっては慎重な判断が必要になる場合もあります。
この記事では、起こりうる副作用、慎重な判断が必要とされる方の条件、事前に守っていただきたい準備、当日と帰宅後の注意点を整理します。安全性を高めるためにどのような体制がとられているのかについても触れます。
不安を煽ることが目的ではありません。何が起こりうるかを知っておくことが、納得して選ぶための材料になると考えています。
静脈内鎮静法で起こりうる副作用
呼吸が浅くなる
鎮静薬の作用によって、呼吸が浅くなることがあります。呼吸抑制と呼ばれる変化です。
鎮静が深くなるほど起こりやすくなるため、薬は少量ずつ投与しながら状態を確認して調整されます。治療中は血中の酸素飽和度を測る機器が指に装着され、継続して監視が行われます。
変化が見られた場合には、酸素を投与する、体の向きや顎の位置を調整する、薬の投与を止めるといった対応がとられます。
睡眠時無呼吸症候群がある方や、顎が小さい方、扁桃が大きい方、体格の面で気道が狭くなりやすい方では、より慎重な管理が必要とされています。
血圧が下がる
鎮静薬には血圧を下げる作用があるものがあり、投与後に血圧の低下がみられることがあります。
治療中は血圧計が装着され、定期的に測定されます。低下が大きい場合には、体位の調整や輸液などの対応がとられます。
もともと血圧が低い方や、循環器に関わる持病がある方では、事前の確認がより重要になります。
吐き気や嘔吐
治療後に吐き気を感じたり、実際に嘔吐したりすることがあります。
鎮静下では喉の反射が弱まっているため、嘔吐した内容物が気管に入り込む誤嚥という問題が生じる可能性があります。事前の飲食制限は、このリスクを下げるために設けられているものです。
胃を空にした状態で臨むことが、この点では最も重要な準備になります。
点滴部位の痛みや内出血
点滴を入れる際、また薬を投与する際に、血管に沿ってチリチリとした痛みを感じることがあります。血管痛と呼ばれ、使用する薬剤の種類によって起こりやすさが異なります。
針を刺した部位に、青あざのような内出血や軽い腫れが生じることもあります。多くは数日から1週間程度で目立たなくなります。
頭痛、めまい、ふらつき
治療後に頭痛やめまいを感じることがあります。立ち上がったときにふらつくこともあります。
これらは時間の経過とともに落ち着いていくことが多いものです。院内で休んでから帰宅するのは、この状態が落ち着いたことを確認するためでもあります。
落ち着かない状態になる
薬が効いてくる過程で、落ち着かない様子になったり、逆に興奮した状態になったりすることがあります。奇異反応と呼ばれることもあります。
頻度は高くありませんが、起こりうる反応として知られています。この場合、薬の量や種類を調整するなどの対応がとられます。
アレルギー反応
薬剤に対するアレルギー反応が、まれに起こることがあります。
過去に薬でじんましんが出た、体調が悪くなったという経験がある場合は、事前に伝えておいてください。どの薬でどのような症状が出たかを具体的に伝えられると、薬剤の選択に役立ちます。
副作用の頻度について
海外で行われた口腔外科領域の調査では、静脈内鎮静下での処置において合併症が生じた割合は数パーセント以下と報告されています。内容としては、一時的な呼吸や循環の変化が中心でした。
ただしこれは、適切な訓練を受けた術者が監視体制を整えたうえで、薬剤を少量ずつ調整しながら投与した場合の数値です。どのような体制で行われるかによって前提が変わる点にはご留意ください。
慎重な判断が必要とされる場合
静脈内鎮静法は誰でも受けられるというものではありません。全身の状態によっては、実施が難しい、あるいは慎重な判断を要するとされる場合があります。
呼吸に関わる状態
鎮静下では気道が狭くなりやすくなるため、次のような状態がある場合には注意が必要とされています。
睡眠時無呼吸症候群がある方。いびきが大きいと指摘されたことがある方も、その旨を伝えておくとよいでしょう。
扁桃が大きい方、顎が小さい方、首が短い方。気道の確保という観点で影響します。
高度の肥満がある方。呼吸への負担が大きくなる可能性があります。
喘息や慢性的な呼吸器疾患がある方。状態が安定しているかどうかが判断に関わります。
循環器に関わる状態
心臓の疾患があり状態が安定していない方、不整脈がある方などについては、慎重な判断が求められます。
一方で、緊張による血圧の変動が大きい方に対しては、むしろ全身状態を安定させる目的で鎮静が用いられることもあります。持病があるから受けられないと決まっているわけではなく、状態によって判断が変わるということです。
常用薬との関係
服用中の薬によっては、鎮静薬との組み合わせに注意が必要な場合があります。
睡眠薬や抗不安薬など、鎮静薬と同じ系統の薬を服用している場合。効き方に影響が出ることがあります。
精神科領域の薬を継続して服用している場合。薬の種類によって対応が変わります。
特定の薬については、使用する鎮静薬との併用が避けられる場合もあります。
いずれも自己判断で服薬を中止しないでください。中止することのほうがリスクになる薬もあります。お薬手帳を持参し、判断は歯科医師に委ねてください。
そのほか慎重な判断を要する状態
緑内障の一部の病型や、筋の力が弱くなる疾患がある場合、使用できない薬剤があります。
妊娠中の方、妊娠の可能性がある方については、施設によって対応が異なります。妊娠の可能性がある場合は、その旨を事前にお伝えください。
小さなお子さんについても、対応の可否は施設によって異なります。
肝臓や腎臓の機能に低下がある場合、薬の代謝や排出に影響するため、投与量の調整が必要になることがあります。
これらの判断は、問診と診察、必要に応じた検査を経て行われます。ご自身で該当するかどうかを判断する必要はありません。気になる点があれば、そのまま伝えていただければ十分です。
事前に守っていただきたい準備
飲食の制限
もっとも重要な準備が、事前の飲食制限です。
鎮静下では喉の反射が弱まるため、胃の中に内容物が残っていると、嘔吐した際に気管へ流れ込むおそれがあります。これを防ぐために、胃を空にした状態で臨むことが求められます。
制限の時間は施設によって幅があります。参照した歯科医院の案内では、食事について来院の数時間前まで、水分についてはそれより短い時間までとしている例が多く見られましたが、具体的な時間の設定はそれぞれ異なっていました。飲んでよい水分の種類が定められている場合もあります。牛乳のように胃に残りやすいものは対象外とされることが一般的です。
実際の指示は、受診先の説明に従ってください。自己判断で緩めることは避けていただきたい部分です。
服薬について
常用している薬がある場合、当日飲んでよいかどうかを事前に確認してください。
特に糖尿病の治療を受けている方は注意が必要です。食事を控えた状態で血糖降下薬を服用すると、低血糖を起こすおそれがあります。当日の服薬について具体的な指示が出ることがあります。
血圧の薬など、飲んでおいたほうがよいとされる薬もあります。一律に控えるのではなく、指示に従ってください。
服装と身支度
腕をまくれるゆったりとした服装が適しています。点滴を確保するためです。
指に血中の酸素飽和度を測る機器を装着するため、マニキュアやつけ爪は落としておくよう案内されることがあります。ジェルネイルの場合は事前に相談してください。
化粧については、顔色を確認するために控えめにするよう案内される場合があります。コンタクトレンズも外しておくよう指示されることがあります。
来院方法
ご自身での自動車、オートバイ、自転車の運転は控えてください。帰りだけでなく、来院時も同様です。
公共交通機関を利用するか、付き添いの方に送迎を依頼してください。付き添いが必要かどうかは施設によって方針が異なるため、予約の際に確認しておくとよいでしょう。
体調管理
前日は十分な睡眠をとってください。睡眠不足や体調不良は、薬の効き方にも影響します。
発熱がある、風邪をひいているなど体調がすぐれない場合は、無理をせず事前に連絡してください。日を改めるという判断がとられることがあります。
飲酒は前日から控えるよう案内されることが一般的です。
当日と帰宅後の注意点
帰宅の判断
治療が終わって鎮静薬の投与を止めても、すぐに帰宅できるわけではありません。
ふらつきや眠気が落ち着くまで院内で休みます。意識がはっきりしていること、水分がとれること、自分の足で安定して歩けることなどが確認されたうえで帰宅となります。
休む時間の目安は施設や処置の内容によって異なりますが、ある程度の時間を見込んで予定を組んでおくと安心です。
帰宅時の移動
帰り道でも、ふらつきによる転倒に注意が必要です。階段、駅のホーム、横断歩道などでは特に気をつけてください。
可能であれば付き添いの方と一緒に帰宅するのが安全です。ひとりで帰宅する場合は、急がずゆっくり移動してください。
帰宅後の過ごし方
当日は安静に過ごしてください。眠気やだるさが残ることがあります。
運転は帰宅後も控えてください。判断力や注意力が一時的に低下している可能性があります。
火を使う作業、高所での作業、機械の操作など、注意力を要する作業は避けてください。重要な判断を伴う予定や、契約などの手続きも別日にしておくのが安心です。
激しい運動、飲酒、長時間の入浴も控えてください。
治療後の説明について
静脈内鎮静法では治療中の記憶が残りにくくなりますが、これは治療後の説明についても同じです。
処置後の注意事項、薬の飲み方、次回の予約といった情報を覚えていない場合があります。付き添いの方にも一緒に説明を聞いていただくか、書面で受け取っておくことをおすすめします。
抜歯などを併用した場合
抜歯や外科的な処置を併用した場合、その処置に伴う腫れや痛みが、局所麻酔が切れたあとに出てくることがあります。
これは静脈内鎮静法の副作用ではなく、処置そのものに伴う経過です。処方された薬を指示どおりに使用し、心配な症状があれば受診先に連絡してください。
安全性を高めるための体制
静脈内鎮静法を安全に行うためには、相応の体制が必要になります。
治療中は、血圧計、血中の酸素飽和度を測るパルスオキシメーター、必要に応じて心電図といった生体監視モニターが装着されます。これらによって呼吸や循環の変化を早期に把握することができます。
薬は一度にまとめて投与するのではなく、少量ずつ入れながら反応を確認して調整されます。この方法によって、鎮静が深くなりすぎることを防ぎます。
万一に備えて、酸素の供給設備や救急時に使用する薬剤が用意されていることも重要です。
そして、鎮静薬の作用を理解し、全身状態の変化に対応できる知識と技術を持つ歯科医師が担当することが求められます。日本歯科麻酔学会は、鎮静法や全身麻酔を安全に行える歯科医師を養成するために認定医制度と専門医制度を設けています。
静脈内鎮静法に対応している歯科医院が限られているのは、こうした体制と設備が必要になるためです。
伝えておきたい情報の整理
事前の問診で伝えていただきたい情報をまとめます。
持病の有無と現在の治療状況。通院している医療機関があれば、その情報も含めて伝えてください。
服用中の薬すべて。市販薬やサプリメントも含めます。お薬手帳を持参いただくのが確実です。
アレルギーの有無。薬だけでなく、食物や金属についても該当があれば伝えてください。
過去に麻酔や鎮静を受けた経験と、そのときの経過。効きにくかった、効きすぎた、気分が悪くなったなど、どのような形でも情報になります。
いびきを指摘されたことがあるかどうか。気道の状態を判断する手がかりになります。
飲酒と喫煙の習慣。薬の効き方に関わります。
妊娠の可能性。
これらは安全に実施するために必要な情報です。伝えにくいと感じる内容もあるかもしれませんが、判断を誤らないために必要なものだとご理解いただければと思います。
歯科恐怖症学会からお伝えしたいこと
リスクについて知ることは、不安を増やすためではありません。
何が起こりうるかを知らないまま処置を受けると、実際に何かが起きたときに動揺が大きくなります。逆に、起こりうることと、それに対する備えがあることを知っていれば、落ち着いて臨みやすくなります。
静脈内鎮静法は、リスクがゼロの方法ではありません。同時に、監視体制と適切な調整のもとで行われる方法でもあります。この両方を理解したうえで選んでいただくことが、納得のいく治療につながると考えています。
そして、事前に伝える情報が安全性を左右するという点は、あらためて強調しておきたいところです。飲酒の習慣や服用中の薬を伝えることに気が引ける方もいらっしゃいますが、これらは判断のために必要な情報です。
歯科恐怖症学会は、歯科治療が苦手な方に対する診療のあり方を研究し、その知見を共有することを目的とした団体です。患者さんがご自身に合った方法を選ぶための判断材料を提供することを役割としています。
まとめ
静脈内鎮静法で起こりうる副作用としては、呼吸が浅くなる、血圧が下がる、吐き気や嘔吐、点滴部位の痛みや内出血、頭痛やめまい、落ち着かない状態になる、アレルギー反応などが挙げられます。多くは一時的なもので、監視体制のもとで早期に把握し対応されます。
慎重な判断が必要とされるのは、呼吸に関わる状態がある方、循環器の疾患が安定していない方、特定の常用薬がある方、緑内障の一部の病型や筋の疾患がある方、妊娠中の方などです。ただし持病があるから受けられないと決まっているわけではなく、状態によって判断が変わります。
事前の準備としては、飲食制限を守ること、服薬について指示を確認すること、腕を出しやすい服装で来院すること、運転を避けることが挙げられます。当日は帰宅後も安静に過ごし、判断を要する予定は別日にしておくことをおすすめします。
安全性を高めるうえで重要なのは、監視体制と、事前に正確な情報を伝えることです。伝えにくいと感じる内容も、判断のために必要な情報だとお考えください。
歯科治療への不安が強く受診をためらっている状態が続いているのであれば、まずは相談だけでも受けてみることをおすすめします。リスクについての疑問も、その場で確認していただければと思います。
歯科恐怖症学会では、歯科治療が苦手な方に対応している歯科医師の情報を掲載しています。あわせてご覧ください。
よくある質問
静脈内鎮静法は危険ですか
リスクがまったくない医療行為は存在しませんが、監視体制を整えたうえで薬を少量ずつ調整しながら投与することで、安全性に配慮して実施される方法です。海外の口腔外科領域の調査では、合併症の発生は数パーセント以下と報告されています。重要なのは、適切な体制のもとで行われることと、事前に正確な情報を伝えることです。
持病があると静脈内鎮静法は受けられませんか
持病があることが直ちに受けられないことを意味するわけではありません。状態が安定しているか、どのような薬を服用しているかなどによって判断が変わります。緊張による血圧変動が大きい方に対して、むしろ全身状態を安定させる目的で用いられることもあります。まずは診察でご相談ください。
静脈内鎮静法の前にどのくらい飲食を控えるのですか
施設によって基準が異なります。食事は来院の数時間前まで、水分はそれより短い時間までとされることが一般的ですが、具体的な時間の設定は受診先によって違います。飲んでよい水分の種類が定められている場合もありますので、受診先の指示に従ってください。
常用している薬は当日飲んでもよいですか
薬の種類によって異なります。飲んでおいたほうがよいものと、控えたほうがよいものがあります。特に糖尿病の薬については、食事を控えた状態での服用に注意が必要です。自己判断で中止せず、お薬手帳を持参して事前に確認してください。
帰宅後はどのように過ごせばよいですか
当日は安静に過ごしてください。運転、火を使う作業、高所での作業など注意力を要することは避けてください。飲酒、激しい運動、長時間の入浴も控えていただきます。重要な判断を伴う予定は別日にしておくと安心です。
参考文献
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- Safety of deep intravenous propofol sedation in the dental treatment of children in the outpatient department.
- Safety and efficacy of different sedation protocols in managing dental anxiety in adult patients: a randomized controlled trial.
- 日本歯科医師会. テーマパーク8020「歯科治療の麻酔」.
歯科恐怖症学会編集部
本記事は歯科恐怖症学会に所属する歯科医師の監修のもと制作しています。

・歯科医師
・歯科恐怖症学会専門医
・マリコ歯科クリニック 副院長



