静脈内鎮静法と全身麻酔の違い|笑気麻酔・局所麻酔を含めた4つの比較

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静脈内鎮静法と全身麻酔の違い|笑気麻酔・局所麻酔を含めた4つの比較

静脈内鎮静法と全身麻酔の違い|笑気麻酔・局所麻酔を含めた4つの比較

歯科治療が苦手だと相談したときに、複数の方法を提示されて迷ってしまう。静脈内鎮静法と全身麻酔はどちらも点滴を使うと聞いたけれど何が違うのか。笑気麻酔とはどう使い分けるのか。名前が似ているものもあり、整理がつかないという声をよく耳にします。

歯科で用いられる麻酔と鎮静の方法は、大きく4つに分けられます。局所麻酔、笑気吸入鎮静法、静脈内鎮静法、そして全身麻酔です。これらは優劣で並ぶものではなく、役割がそれぞれ異なります。

この記事では、4つの方法を意識の有無、呼吸の管理、記憶の残り方といった観点から整理します。そのうえで、どの方法が選ばれるかの判断軸についても解説します。

歯科で用いられる4つの方法

痛みを取るものと不安を取るもの

比較の前に、押さえておきたい区別があります。それは、痛みを取り除く役割と、不安や緊張をやわらげる役割は別のものだという点です。

歯を削る、抜くといった処置の痛みを抑えるのは、局所麻酔の役割です。歯ぐきに注射することで、その部位の感覚を一時的に遮断します。

一方、笑気吸入鎮静法と静脈内鎮静法は鎮静法と呼ばれ、不安や緊張をやわらげることを目的としています。これらには痛みを取り除く働きはほとんどないか、あっても限定的です。そのため、痛みを伴う処置では局所麻酔と組み合わせて用いられます。

全身麻酔は、意識を消失させることで両方の目的を同時に果たす方法です。

この区別を理解しておくと、なぜ鎮静法を使っても局所麻酔の注射をするのかが納得しやすくなります。

鎮静の深さという考え方

鎮静は、効いているか効いていないかの二択ではありません。浅い状態から深い状態まで連続的に変化します。

笑気吸入鎮静法で目指されるのは比較的浅い段階で、意識ははっきり保たれます。静脈内鎮静法ではもう少し深い段階まで進み、うとうとした状態になりますが、呼びかけには反応できます。全身麻酔ではさらに深く、意識が完全に消失します。

この連続性を頭に入れておくと、4つの方法が段階的に並んでいることが見えてきます。

静脈内鎮静法と全身麻酔の違い

もっとも混同されやすいこの2つから整理します。どちらも点滴から薬を投与するため、外から見た手順は似ています。しかし体に起きていることは大きく異なります。

意識の違い

静脈内鎮静法では、意識は完全には失われません。名前を呼ばれる、口を開けるよう促されるといった働きかけに反応できる程度の意識が保たれます。

全身麻酔では、意識が完全に消失します。呼びかけにも痛み刺激にも反応しない状態になります。

呼吸の管理

静脈内鎮静法では、自分の力で呼吸を続けることができます。呼吸が浅くなった場合には酸素を投与するなどの対応がとられますが、基本的には自発呼吸が保たれます。

全身麻酔では自発呼吸が止まるため、気管にチューブを挿入して人工呼吸器で呼吸を管理する必要があります。この処置に伴い、唇や歯を傷つける可能性や、術後に喉の違和感が生じる可能性が指摘されています。

この呼吸管理の有無が、両者の体への負担の差を生む最大の要因です。

記憶の残り方

静脈内鎮静法では、意識は保たれているものの、使用される薬の健忘作用によって治療中の記憶が残りにくくなります。ただし効き方には個人差があり、うっすらと記憶が残る方もいます。

全身麻酔では意識そのものがないため、治療中の記憶は残りません。

実施できる施設と入院の必要性

静脈内鎮静法は、生体監視モニターなどの設備と鎮静を管理できる知識があれば、外来で実施することが可能です。入院を必要とせず、その日のうちに帰宅できます。

全身麻酔は、呼吸を管理する設備と体制が必要になるため、実施できる施設が限られます。大学病院や総合病院の歯科口腔外科が中心となり、歯科医院で対応しているところは多くありません。回復にも時間がかかり、入院を伴う場合があります。

用いられる薬剤

静脈内鎮静法では、鎮静を目的とした薬剤が用いられます。ベンゾジアゼピン系と呼ばれる分類の薬や、静脈麻酔薬を少量で使用する場合があります。

全身麻酔では、意識を消失させるための麻酔薬に加えて、鎮痛薬や筋の緊張を抑える薬が組み合わせて用いられます。

同じ薬剤が、投与量によって鎮静にも全身麻酔にも使われることがあります。境界は薬の種類ではなく、どの深さを目指すかによって決まると考えるとわかりやすいかもしれません。

静脈内鎮静法と笑気麻酔の違い

次に、鎮静法どうしの比較です。

投与の経路

笑気吸入鎮静法は、鼻にマスクを装着してガスを吸入します。注射も点滴も必要ありません。

静脈内鎮静法は、腕の静脈に点滴を確保して薬を投与します。針を刺す必要があるため、針が苦手な方には事前の相談が欠かせません。

鎮静の深さと記憶

笑気麻酔では意識がはっきり保たれ、会話もできます。治療中の記憶も残ります。

静脈内鎮静法ではうとうとした状態になり、健忘作用によって記憶が残りにくくなります。

治療中のことを覚えていたくないという希望がある場合、この差は選択の決め手になります。

痛みへの作用

笑気には弱い鎮痛作用があるとされています。ただしこれだけで歯を削る痛みを抑えられるわけではなく、局所麻酔との併用が前提です。役立つのは、局所麻酔の注射そのものへの抵抗感を軽くする場面です。

静脈内鎮静法には痛みを取り除く働きがほとんどありません。こちらも局所麻酔との併用が前提になります。

準備と所要時間

笑気麻酔は効果の発現と消失がともに速く、事前の飲食制限も比較的緩やかです。治療後に長時間休む必要は通常ありません。

静脈内鎮静法では、数時間前からの飲食制限が必要になります。治療後もふらつきが落ち着くまで院内で休んでから帰宅します。来院から帰宅までの時間は、笑気麻酔より長く見込む必要があります。

手軽さでは笑気麻酔、効果の深さでは静脈内鎮静法という関係になります。

局所麻酔はどこに位置づけられるか

局所麻酔は、鎮静法とは目的が異なります。

歯ぐきに注射することで、その部位の感覚を一時的に遮断します。意識には影響せず、不安や緊張をやわらげる働きもありません。痛みだけを取り除く方法だと考えてください。

歯科治療で痛みを抑える中心的な役割を担うのは、この局所麻酔です。鎮静法を用いる場合でも、痛みを伴う処置であれば局所麻酔は併用されます。

つまり、鎮静法は局所麻酔の代わりではなく、局所麻酔に上乗せするものだという位置づけになります。

4つの方法の比較

観点ごとに整理します。

意識について。局所麻酔でははっきりしています。笑気麻酔でもはっきり保たれます。静脈内鎮静法ではうとうとした状態になり、全身麻酔では消失します。

呼吸について。局所麻酔、笑気麻酔、静脈内鎮静法はいずれも自発呼吸が保たれます。全身麻酔では人工呼吸器による管理が必要です。

痛みを取る働きについて。局所麻酔が中心的な役割を担います。笑気麻酔には弱い作用があり、静脈内鎮静法にはほとんどありません。全身麻酔では意識がないため痛みを感じません。

不安をやわらげる働きについて。局所麻酔にはありません。笑気麻酔では軽度から中等度、静脈内鎮静法ではより深い鎮静が得られます。

治療中の記憶について。局所麻酔と笑気麻酔では残ります。静脈内鎮静法では残りにくくなり、全身麻酔では残りません。

事前の飲食制限について。局所麻酔では通常不要です。笑気麻酔では直前の食事を控える程度、静脈内鎮静法では数時間前からの制限、全身麻酔ではより厳格な管理が求められます。

帰宅について。局所麻酔では処置後すぐに帰宅でき、運転も可能です。笑気麻酔では回復後に帰宅となります。静脈内鎮静法では院内で休んでから帰宅し、当日の運転はできません。全身麻酔では入院や経過観察を伴う場合があります。

対応している施設について。局所麻酔と笑気麻酔は多くの歯科医院で対応しています。静脈内鎮静法は設備と体制のある医院に限られ、全身麻酔は主に大学病院や総合病院となります。

どの方法が選ばれるか

判断の軸

方法を決めるときに考慮されるのは、主に次の要素です。

不安や恐怖の程度。軽い緊張なのか、診療台に座ることも難しい状態なのかによって、必要な鎮静の深さが変わります。

治療の内容と所要時間。短時間で終わる処置か、複数本の抜歯やインプラント手術のように時間のかかる処置かによって判断が変わります。

全身の状態。持病の有無、服用中の薬、呼吸や循環に関わる状態などが、選択できる方法を左右します。

当日の予定と通院の都合。治療後に休む時間をとれるか、付き添いを頼めるか、運転せずに帰宅できるかといった事情も関わります。

治療中のことを覚えていたくないという希望の有無。これは健忘作用のある方法を選ぶかどうかの判断につながります。

段階的に進めるという考え方

はじめから深い鎮静を選ばなければならないわけではありません。

まず笑気麻酔を試してみて、それで治療が進められるようであれば続ける。十分でなければ静脈内鎮静法を検討する。こうした段階的な進め方をとることがあります。

逆に、静脈内鎮静法で治療に慣れたあと、通常の方法へ移行していくという流れもあります。鎮静法を使ったことで治療を最後まで受けられたという経験が、次の受診のハードルを下げることがあるためです。

どの方法も、一度選んだらずっとそれを続けなければならないというものではありません。

保険適用の考え方

いずれの方法についても、保険が適用されるかどうかはその処置に医学的な必要性が認められるかによって判断されます。

歯科治療を進めるうえで鎮静が必要と判断される理由がある場合には、保険診療の対象となることがあります。一方、自費診療として行う治療に伴って用いる場合には、鎮静も自費として扱われます。

医療機関の体制によっても扱いが変わることがあります。詳しくは受診先でご確認ください。

なお本記事では、具体的な金額の記載は行っていません。

それぞれの方法に伴うリスク

どの方法にも、程度の差はあれリスクがあります。

局所麻酔では、注射部位の痛みや腫れ、まれにアレルギー反応が起こることがあります。麻酔が効いている間に唇や頬を噛んでしまうこともあります。

笑気麻酔では、吐き気や気分の悪さ、頭痛やめまいが現れることがあります。鼻での呼吸がしづらい方には効果が得られにくく、妊娠中の方などには慎重な判断が必要とされています。

静脈内鎮静法では、呼吸が浅くなる、血圧が下がるといった変化が起こることがあります。点滴部位の血管痛や、治療後の吐き気、ふらつきが生じることもあります。

全身麻酔では、吐き気や嘔吐、頭痛などが比較的多く報告されています。気管へのチューブ挿入に伴う喉の違和感や、唇や歯の損傷が生じる可能性もあります。

鎮静や麻酔の深さが増すほど、管理すべき項目も増えます。どの方法であっても、事前に持病や服用中の薬、過去の麻酔での経過を伝えることが安全性を高めることにつながります。

歯科恐怖症学会からお伝えしたいこと

方法を比較する情報は、どうしても「どれが一番良いか」という見方に傾きがちです。しかし実際には、目的が異なる方法が並んでいるだけであり、優劣の問題ではありません。

大切なのは、ご自身が何を求めているかを整理することです。痛みを避けたいのか、不安をやわらげたいのか、記憶を残したくないのか、一度にまとめて治療を終えたいのか。求めるものによって、適した方法は変わります。

そして、その希望を歯科医院に伝えることです。どの方法を使うかは最終的に診察を経て判断されますが、患者さん側の希望は判断の重要な材料になります。

歯科恐怖症学会は、歯科治療が苦手な方に対する診療のあり方を研究し、その知見を共有することを目的とした団体です。患者さんがご自身に合った方法を選ぶための判断材料を提供することを役割としています。

まとめ

歯科で用いられる方法は、局所麻酔、笑気吸入鎮静法、静脈内鎮静法、全身麻酔の4つに大きく分けられます。痛みを取り除くのは局所麻酔の役割であり、鎮静法は不安や緊張をやわらげるものだという区別が、理解の出発点になります。

静脈内鎮静法と全身麻酔の最大の違いは、意識と自発呼吸が保たれるかどうかです。静脈内鎮静法では呼びかけに反応でき自分で呼吸もできるため、外来で実施でき入院も不要です。全身麻酔では人工呼吸器による管理が必要となり、実施できる施設が限られます。

静脈内鎮静法と笑気麻酔の違いは、投与経路と鎮静の深さ、そして記憶の残り方にあります。手軽さでは笑気麻酔、効果の深さでは静脈内鎮静法という関係になります。

どの方法が適しているかは、恐怖の程度、治療内容、全身状態、当日の都合などによって変わります。段階的に試していくという進め方もあります。

歯科治療への不安が強く受診をためらっている状態が続いているのであれば、まずは相談だけでも受けてみることをおすすめします。どのような選択肢があるのかを知るところから始めていただければと思います。

歯科恐怖症学会では、歯科治療が苦手な方に対応している歯科医師の情報を掲載しています。あわせてご覧ください。

よくある質問

静脈内鎮静法と全身麻酔はどちらが安全ですか

安全性は方法だけで決まるものではなく、実施する体制と患者さんの状態によって変わります。一般的には、意識と自発呼吸が保たれる静脈内鎮静法のほうが体への負担は軽いとされています。ただし全身麻酔が必要と判断される場面もあり、どちらを用いるかは診察を経て判断されます。

静脈内鎮静法は全身麻酔の軽い版ということですか

似ているようで異なります。全身麻酔は意識を消失させることを目的とし、静脈内鎮静法は意識を保ったまま不安をやわらげることを目的としています。目指す状態そのものが違うため、量の違いというより目的の違いだとお考えください。

笑気麻酔と静脈内鎮静法を両方使うことはありますか

組み合わせて用いられる場合があります。ただし鎮静が深くなりすぎる可能性があるため、慎重な管理が求められます。どのような組み合わせが適切かは、治療内容と全身状態を踏まえて判断されます。

鎮静法を使えば局所麻酔の注射は不要になりますか

不要にはなりません。痛みを取り除くのは局所麻酔の役割であり、鎮静法にはその働きがほとんどないためです。ただし鎮静下では注射への抵抗感が下がるため、注射そのものの負担は軽くなる傾向があります。

歯科医院で全身麻酔は受けられますか

対応している歯科医院は多くありません。呼吸を管理する設備と体制が必要になるためです。歯科で全身麻酔を用いる場合は、大学病院や総合病院の歯科口腔外科が中心となります。紹介が必要になることが一般的です。

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歯科恐怖症学会編集部

本記事は歯科恐怖症学会に所属する歯科医師の監修のもと制作しています。